小さなな会社の広報戦略室

改めてトランプ関税を確認

毎日ニュースで聞かない日がないですね。トランプ政権が米国の貿易赤字や製造業基盤の空洞化への懸念から、国家安全保障などの理由に基づき「相互関税」と呼ばれる広範な追加関税を導入し、日本は24%、中国は違法薬物対策等関連の追加関税や中国の報復関税に対する報復税を含め145%という非常に高い関税率が課されていることになります。

個人から大企業まで中国で生産して、アメリカに販売している企業も多いと思います。弊社のお客様でも中国で生産し米国に輸出しているところもあり、気になりまして調べてみました。

結論から先に書きますと米国へ輸出する製品の「原産国」がどこであるかによって、関税額が劇的に変わる可能性があるということです。

今回はトランプ政権の「相互関税」の概要と、なぜ今「原産国」の判断がこれほど重要になっているのか、そして最も注意すべき「中国関連リスク」と具体的な対策について、自分の頭の整理ついでにブログに書こうと思います。

今回のブログは下記について調べました。

  • トランプ政権の「相互関税」が中小企業に与えるインパクト
  • 関税額を左右する「原産国」の決定ルール(実質的変更基準)
  • 特に注意すべき「中国製造→日本経由→米国輸出」のリスク
  • 今すぐ取るべき具体的な関税対策とリスク回避策

僕のようは輸出入に無縁の人間にはとても複雑に思えた関税問題ですが、ポイントを押さえれば理解しやすいです。

そもそもなぜ今「原産国」がこれほど重要なのか?

改めて説明しますと「原産国」とは関税率の決定に影響する、製品が製造・生産された国ということです。これまでも、輸入される製品の原産国は関税率を決める上で重要な要素でした。しかし、トランプ政権が導入した「相互関税」によって、その重要性はかつてないほど高まっています。

最初にも述べましたがこの政策の背景には、米国の貿易赤字や国内製造業の空洞化に対する強い懸念があります。国家安全保障などを理由に、トランプ政権は広範な輸入品に対して追加関税を課すことを決定しました。

その内容は以下の通りです。

  1. ベース関税: 全ての貿易相手国からの輸入品に対し、一律10%の追加関税(相互関税)を課す。
  2. 上乗せ関税: さらに、一部の国に対しては、ベースの10%に加えて、上乗せの追加関税を設定する。

この相互関税は段階的に適用が進められており、多くの国(日本を含む)に対しては既に10%部分が適用開始されています。そして、10%を超える上乗せ部分は2025年7月上旬から適用が開始される予定と報じられています。

この相互関税の最も重要なポイントは、「どの国が原産国か」によって適用される関税率が大きく異なる点です。

例えば、報道されている税率例を見ると(※注:関税率は変更される可能性があります):

  • 日本: ベース10% + 上乗せ14% = 合計 24%
  • 中国: ベース10% + 上乗せ(中国の報復関税に対して 報復関税分も含む)= 合計 145%

つまり、同じ製品であっても、原産国が「日本」と判断されれば24%(現在は10%)の関税で済む可能性がありますが、原産国が「中国」と判断されてしまうと、145%という極めて高い関税が課されるリスクがあるのです。

これは、特に中国から部品や半製品を調達し、日本で加工・組立を行って米国に輸出している企業にとって、非常に大きな経営リスクとなり得ます。逆に、日本よりも関税率が低い国(メキシコ、カナダなど)が原産国と認められれば、関税負担を軽減できる可能性もあります。

さらにやっかいなのは、これらの相互関税とは別に、自動車および自動車部品に対しては別途25%の追加関税が課されている点です。自動車関連産業の中小企業にとっては、こちらも見過ごせない大きな影響がありますね。

このように、トランプ政権下の関税政策は、製品の「原産国」をかつてないほど重要な要素へと押し上げました。では、その「原産国」は一体どのように判断されるのでしょうか?

米国税関はどう判断する?「原産国」決定の鍵「実質的変更」とは

米国では、輸入される外国製品には原産国を明記することが法律で義務付けられています。輸入者は通関手続きの際に、貨物の原産国を申告しなければなりません。この「原産国」を米国税関(CBP: U.S. Customs and Border Protection)がどのように判断するのか、その基準を知ることが極めて重要です。

多くの製品において、米国税関が原産国を判断する際に用いるのが「実質的変更(Substantial Transformation)」という基準です。

「実質的変更」とは、簡単に言えば、ある国で行われた製造・加工工程によって、その物品が元の材料や部品とは異なる「新しい物品」に生まれ変わったと認められるかどうか、という考え方です。

具体的には、加工や組立工程を経ることで、その製品が「新たな名称(Name)、特性(Character)、及び用途(Use)」を持つようになった場合に、「実質的変更」があったとみなされ、その加工・組立を行った国が原産国となります。

重要な注意点として、以下のような軽微な作業は、通常「実質的変更」とは認められません。

  • 単なる部品の組立て(Simple Assembly)
  • 再包装、仕分け、ラベル貼り
  • 水などによる希釈
  • 簡単な混合(Simple Mixing)

つまり、例えば中国から輸入した部品を、日本国内でただ単にスクリューで留めて完成品にしただけ、といったケースでは、日本での作業は「実質的変更」とは認められず、原産国は「中国」のままとなる可能性が高いのです。※自社の製品はどうなのかは必ずご自身でご確認くださいね。

要注意!「中国製造→日本経由→米国輸出」に潜む巨額関税リスク

それでは中国で製造された部品や半製品を日本に輸入し、日本国内で比較的軽微な加工や組立てのみを行って、完成品として米国へ輸出する、というサプライチェーンです。

多くの中小企業が、コスト等の理由からこのような生産体制をとっている可能性がありますが、相互関税が厳格に適用される状況下では、非常に気になるところです。

前述の通り、日本国内で行われる作業が、米国税関によって「実質的変更」を伴わない「軽微な加工・組立」であると判断された場合、その製品の原産国は「日本」ではなく「中国」と認定されてしまいます。

その結果、本来想定していた日本の関税率(相互関税適用後24%)ではなく、中国に対する極めて高い関税率が適用され、関税額が予期せず数倍以上に跳ね上がる可能性があります。

これは、企業の利益を大幅に圧迫するだけでなく、価格競争力を失い、最悪の場合、米国市場からの撤退を余儀なくされる事態にも繋がりかねません。

さらに深刻なのは、意図的に原産国を偽って申告するケースです。例えば、中国製品に課される高関税を回避する目的で、一旦日本を経由させ、日本でラベルを貼り替えるなどして「日本製」と偽って米国に輸出しようと考えるかもしれません。

しかし、これは「迂回輸出(Transshipment)」と呼ばれる明白な違法行為です。米国税関は、このような不正行為に対して非常に厳しい監視体制を敷いています。かつて東洋インキが、中国とインドを原産地とする特定の色素の輸入において、原産地を日本とメキシコと偽って米国税関に申告してとても痛い目をみました。会社の存続そのものを脅かす極めて危険な行為ですので絶対に手を出さないようにしましょう。

中小企業が今すぐ取るべき具体的対策3ステップ

相互関税の導入と原産国判断の厳格化はアメリカとの取引がある中小企業にとって、無視できない経営課題です。ここでは、中小企業が今すぐ取るべき具体的な対策を3つのステップでご紹介します。

まずは、現在米国に輸出している(あるいは将来輸出を計画している)製品について、その「原産国」が本当に「日本」であると自信を持って言えるかを徹底的に検証しましょう。

以下の点をチェックしてください。

  • 主要な部品・原材料はどこから調達しているか? (特に中国からの調達がないか?)
  • 日本国内で行っている加工・組立工程は何か?
  • その工程は、米国の「実質的変更」基準を満たしていると言えるか? (単なる組立や軽微な加工にとどまっていないか?)
  • 加工前後で、製品の名称、特性、用途はどのように変化しているか?
  • HSコードは変更されているか? (変更されていなくても、実質的変更が認められる場合もある)
  • 過去に原産国をどのように判断し、申告してきたか? その根拠は?

特に、これまで「なんとなく日本製だろう」と考えていた製品や、中国から多くの部品を調達している製品については、重点的に確認が必要です。

自社だけで「実質的変更」の判断が難しいケースも多いでしょう。特に、ボーダーライン上の製品や、サプライチェーンが複雑な製品については、判断を誤ると大きなリスクに繋がります。

そのような場合は、決して自己判断せず、以下の方法を検討してください。

  1. 専門家への相談:
    • 通関業者や、国際貿易・関税に詳しい弁護士などに相談し、専門的なアドバイスを求めましょう。彼らは最新の規制動向や過去の判断事例に精通しています。
  2. 米国税関の「事前教示制度(Binding Ruling / CROSS)」の活用:
    • これは、輸入前に米国税関に対して、特定の製品の原産国や関税分類、関税評価などについて、正式な判断を照会できる制度です。
    • 申請には詳細な資料(製品情報、製造工程、コスト構成など)が必要となりますが、一度ルーリング(回答書)を取得すれば、その判断は一定期間、米国税関を法的に拘束します。
    • これにより、通関時の不確実性を排除し、予期せぬ追徴課税のリスクを大幅に低減できます。判断が難しい製品については、この制度の活用を強く推奨します。

事前教示の申請には時間と手間がかかりますが、将来的なリスクを考えれば、非常に有効な投資と言えます。

短期的な対応と並行して、長期的な視点でのサプライチェーン戦略の見直しも検討しましょう。

  • 生産拠点の見直し:
    • もし、現在の生産体制では「実質的変更」基準を満たすのが難しい、あるいは中国原産国リスクが高いと判断される場合、生産工程の一部または全部を日本国内や、関税上有利な国(例:米国との自由貿易協定締結国)に移管することを検討します。
    • ただし、単に物流拠点を移すだけでは原産国は変わりません。移転先での生産活動が「実質的変更」と認められるかどうかの慎重な判断が必要です。
  • 調達先の多様化:
    • 特定の国(特に中国)への依存度が高い場合、調達先を他の国にも分散させることで、地政学リスクや関税リスクを軽減できます。
  • 製品設計の見直し:
    • 製品の設計段階から原産国規則を意識し、日本国内や有利な国での「実質的変更」が認められやすいような工程を組み込むことも有効な戦略です。

サプライチェーンの変更は大きな経営判断ですが、関税環境の変化に対応し、持続的な成長を目指すためには、不可欠な検討事項となるでしょう。

まとめ:トランプ関税時代を乗り切るために – 原産国リスクへの備えが不可欠

今回は、トランプ政権下の新たな関税政策、特に「相互関税」の導入によって、米国輸出における「原産国」判断の重要性が飛躍的に高まっている点、そして、その判断基準となる「実質的変更」、さらに「中国製造→日本経由→米国輸出」ケースに潜む具体的なリスクと、中小企業が取るべき対策について書いてきました。

ポイントの再確認:

  • 相互関税: 全輸入品に10%、特定国には上乗せ関税。原産国で税率が激変。
  • 原産国判断: 米国税関は「実質的変更」基準で判断。軽微な加工・組立はNG。
  • 中国リスク: 日本での軽微な加工では「中国産」と判断され、高関税の可能性。
  • 迂回輸出は厳禁: 発覚すれば追徴課税、罰金、刑事罰も。
  • 取るべき対策: ①自社製品の原産国再点検、②専門家相談・事前教示活用、③サプライチェーン見直し。

世界情勢の変化に伴い、貿易ルール、特に関税に関する規制は今後も変更される可能性があります。

アメリカと取引がある経営者は自社の経営に直結する重要な課題なので常に最新の情報を入手するようにいたしましょう。

不確実な時代だからこそ、リスクを正確に把握し、先手を打つ。そのための気づきとしてこのブログを読んでいただけたら幸いです。