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【解説】2025年4月1日に施行!情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)とは?〜法改正の背景と概要〜

【解説】2025年4月1日に施行!情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)とは?〜法改正の背景と概要〜

先日4月1日に施行された「情報流通プラットフォーム対処法」(以下、情プラ法)は、SNS事業者をはじめとするプラットフォーム事業者に大きな影響を与える新たな法制度です。もともと「プロバイダ責任制限法」という名前で運用されてきた法律がパワーアップし、名前も変わって登場したのが、この「情プラ法」なんです。インターネット上の誹謗中傷や違法情報への対処を強化する狙いで制定された一方、表現の自由との兼ね合いにも議論が及んでいます。この「情プラ法」とは一体どんな法律なのか、我々の使うSNSにどんな影響があるのか、そして気になる「表現の自由」との関係について、専門的な情報も交えながら、分かりやすく解説していきます。


情プラ法とは何か? 〜法改正の背景と概要〜

インターネットの普及により、SNSや掲示板などオンライン上における言論の場は急速に拡大しました。しかし、それに伴って誹謗中傷やプライバシー侵害、さらには違法薬物や闇バイトの募集など、社会的に有害な情報が跋扈(ばっこ)するという問題が深刻化しています。こうした状況に対応するために、従来の「プロバイダ責任制限法」を改正し、名称も「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)へと改めたのです。

情プラ法の目的は、違法情報や誹謗中傷被害などへの迅速かつ適切な救済を可能にすることです。そのため、大規模SNSなどを運営するプラットフォーム事業者を中心に、情報削除のルールや運用体制に関する新たな義務が課される点が大きな特徴となっています。

  • 7日以内の削除等の可否判断
    被害者から投稿削除の申し出があった場合、事業者は7日以内に削除すべきか否かを判断し、対応結果を通知しなければなりません。これにより、被害を受けた人が長期間放置されることを防ぎ、早期救済に繋げる狙いがあります。
  • 削除基準の策定・公表義務
    どのような投稿が削除対象となるか、その基準を事業者が独自に策定・公表する必要があります。利用者が安心してSNSを利用できるよう、透明性の確保が求められています。
  • 運用状況の年1回公表義務
    対応件数や運用体制(日本語で対応可能な担当者数など)を年に1回報告・公表しなければなりません。これにより、利用者や社会がそのサービスの実態を把握しやすくなります。
  • 総務省による勧告・命令、最大1億円の罰金
    違法・有害情報への対応が著しく不十分と判断された場合、総務大臣が勧告・命令を出し、従わなければ罰金を科す可能性があります。法的拘束力が強化されたことにより、プラットフォーム事業者に対するプレッシャーが高まっています。

SNS事業者への影響 〜大規模プラットフォームの運営体制見直し〜

情プラ法では特に、月間利用者数が数千万規模の大規模特定電気通信役務提供者が主な対象と想定されています。具体的にはTwitter(現X)やFacebook、Instagram、YouTubeなど、世界規模で利用されているSNSプラットフォームが含まれる見込みです。海外企業であっても日本国内で大規模に展開している場合には、法律の適用対象となります。

新ガイドラインでは、被害当事者本人だけでなく、第三者からの削除要請にも対応することが望ましいと明記されました。これは、たまたま権利侵害の投稿を見つけた人でも通報できるようにすることで、より迅速に違法・有害情報を排除する狙いがあります。
一方で、この制度が悪用される可能性も指摘されています。たとえば、選挙の際に競合候補の支持者がまとめて通報し、相手陣営の投稿を大量削除や凍結に追い込むといったシナリオが現実味を帯びてくるのです。SNS事業者は、こうした不当な申請と正当な削除要請とをどう区別し、どのように運用するかという難題に直面しています。

7日以内の対応義務を果たすためには、削除フローを大幅に見直し、十分な人員配置を行う必要があります。特に月間利用者数が多いサービスでは、日々膨大な投稿が行われており、その中から法的に問題のある情報を迅速に洗い出し、判断を下す作業は容易ではありません。
さらに、投稿審査を行う担当者には、各種法律やガイドラインに関する専門知識が求められるほか、削除要請の根拠の正当性を見極めるスキルが必要です。海外企業の場合、日本の法律・言語への対応をどのように体制化するかも大きな課題となります。
こうした事情から、一部のプラットフォーム関係者からは「真面目に制度を運用するには相当な人件費やシステム改修費用がかかる」という懸念が示されています。特に海外資本が主体のSNSでは、「日本向けにそこまで対応できるのか」との疑問の声も根強いようです。


表現の自由とのバランス 〜批判と政府の見解〜

情プラ法の施行に当たっては、SNS上で「言論弾圧ではないか」「政府が都合の悪い投稿まで削除させるのでは」といった懸念が噴出しました。第三者からの削除要請が認められたことで、権力者が批判投稿を恣意的に抑え込みやすくなるのではないか、という疑念です。
しかし政府は「本法律は違法・有害情報への対処を促すものであり、政治的な批判や正当な言論表現まで規制するものではない」と公式に説明しています。実際、削除対象は「他人の権利を不当に侵害する投稿」に限定されており、表現行為すべてが網羅的に取り締まられるわけではありません。

一方でメディア法分野の有識者の中には、プラットフォーム事業者に投稿の取捨選択権を委ねる仕組みそのものを危惧する声もあります。SNS運営企業が本来の「場の提供者」から「投稿の中身を精査する立場」になれば、SNSが事実上のメディアとして言論をコントロールしはじめる可能性があるという主張です。
また、法改正の精神としては「誹謗中傷や違法情報による被害者を救済する」ことが主眼にある一方、「第三者や事業者が積極的に投稿を削除することが本当に正しいのか?」という問題提起もなされています。被害当事者が取り組むべき範囲をどこまで拡張するのか、社会全体で検討する必要があるでしょう。


どう向き合うべきか?

では、この新しい法律の施行を受けて、どのように向き合っていけば良いのでしょうか?

安易な通報は慎む: 第三者通報が可能になったとしても、その仕組みを悪用したり、個人的な感情で安易に通報したりすることは避けるべきです。通報は、客観的に見て権利侵害が明らかな場合に、慎重に行うべきでしょう。

権利侵害にあったら相談を: もし自分がSNS上で誹謗中傷などの被害に遭った場合、プラットフォームに削除を申し出ることで、以前よりも迅速な対応が期待できるようになります。泣き寝入りせず、まずはプラットフォームの相談窓口や専門家などに相談してみましょう。

削除基準を確認する: 各プラットフォームが公表する削除基準に目を通しておくことで、どんな投稿が問題視されるのかを理解し、無用なトラブルを避けることができます。


まとめと今後の展望

情プラ法は、インターネット上の誹謗中傷や違法情報を迅速かつ適正に取り除くために策定された画期的な法律です。大規模プラットフォーム事業者に対して、7日以内の削除対応削除基準の明確化・公表第三者からの通報対応など新たな義務が課されることで、被害者救済が進みやすくなることが期待されています。
一方で、表現の自由とのバランス第三者通報の濫用リスクといった課題も山積みであり、各SNSがどこまで実効的な運用を実現できるかが焦点です。海外資本のプラットフォームが日本独自の規制にどの程度応じるのか、また日本国内で運営する企業が今後どれほどのコストをかけて対応に乗り出すのかは、実際の運用が始まってみないと見えてこない部分も多いでしょう。

しかしながら、法律が施行された以上、SNS事業者が対応を求められるのは間違いありません。体制を整備せずに放置してしまうと、勧告・命令や罰金リスクなど深刻な事態を招く恐れがある為です。

今後もこの分野は法改正の動きやガイドラインの改定が予想されます。課題や懸念点も指摘されていますが、 削除基準の明確化や第三者通報制度の適切な運用、過度な規制への歯止めなど、今後、関係者が協力して透明性の高い運用方法を探っていくことで誰もが安心して利用できる、より健全なオンライン言論空間が実現されることが期待されます。僕たち一人ひとりも、この新しいルールに関心を持ち、その動向を注視しながら、責任あるインターネットユーザーとして行動していくことが、より良いネット社会を築くための第一歩となるでしょう。